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【イベントレポート】政府デジタル推進によりネット不動産時代が到来、オンライン完結型の不動産取引の現状と未来とは

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RENOSY 経営陣

May

9

Mon

WORDS BY浅野 翠
POSTED2022/05/09
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はじめにINTRO
DUCTION

2022年4月19日、PropTech JAPAN主催のオンラインイベントが開催されました。5月18日に予定される改正宅建業法の施行に伴う電子契約の解禁、そしてオンライン不動産取引の現状と未来について、さまざまな意見が飛び出したイベントのレポートをお届けします。

PROFILE
  • 東京大学大学院経済学研究科特任教授(不動産イノベーション研究センター(CREI))
武藤 祥郎(むとう・さちお)
1996年東京大学経済学部経済学科卒、同年建設省( 現国土交通省)入省。 2004年カリフォルニア大学アーバイン校経済学博士(Ph. D.)取得。外務省在アメリカ合衆国日本国大使館一等書記官、 国土交通省総合政策局政策課政策企画官、同土地・ 建設産業局不動産市場整備課長等を経て、 2020年6月より現職。
  • 株式会社デジタルベースキャピタル 代表パートナー
桜井 駿(さくらい・しゅん)
みずほ証券株式会社、株式会社NTTデータ経営研究所・一般社団法人Fintech協会 事務局長を経て「産業を創る。」をミッションに産業変革、規制改革をテーマとしたベンチャー投資、コンサルティング事業を展開する株式会社デジタルベースキャピタルを2019年に創業。 著書に「プロップテックの衝撃」(日経BP)、「決定版FinTech」(共著、東洋経済新報社)、「知識ゼロからのフィンテック入門」(幻冬舎)「超図解ブロックチェーン入門」(日本能率協会マネジメントセンター)等がある。
  • 株式会社GA technologies 代表取締役社長執行役員 CEO
樋口 龍(ひぐち・りょう)
幼い頃より世界的なサッカー選手を目指し、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成選手として所属。24歳でビジネスへ転向。2013年にPropTech(不動産テック)企業を目指し、当社を設立。オンライン不動産取引マーケットプレイス「RENOSY」の開発・運営を始め、不動産ビジネスのDX推進に取り組む。2018年、創業から5年で東京証券取引所マザーズ(現グロース)に上場。
  • 株式会社GA technologies 執行役員 CCO
川村 佳央(かわむら・よしひろ)
新卒でサイバーエージェントに入社し、広告営業や子会社の代表取締役などに従事。その後電通に移籍し、コミュニケーション・デザイン・センター(当時)に所属。コミュニケーションデザイナーとして、広告の企画制作や、社内やクライアント企業に向けたサービス開発・商品開発などの事業開発を担当。2018年7月に当社に入社し、Communication Design CenterのGeneral Managerとして社内外に向けられる全てのコミュニケーションの責任者を務める。2020年12月、同社のコミュニケーション領域の管掌役員として執行役員に就任。

いよいよ法改正が目前に

日本の不動産・建設領域のスタートアップエコシステム構築を目指し、さらなるイノベーションのために取り組むスタートアップのためのコミュニティ「PropTech JAPAN」主催の今回のイベント。不動産業界に大きな影響を与える改正宅建業法施行を前に、メディアや不動産業界関係者など、さまざまな方に視聴いただきました。

まず第1部は、改正宅建業法の施行により実現する「ネット不動産」の世界についてのプレゼンテーションです。

第1部 プレゼンテーション:ネット不動産とは

川村:

みなさんご存知のとおり、2021年5月にデジタル改革関連法が成立しました。デジタル庁の設置を始め多岐に渡る内容ですが、この中でも「デジタル社会形成基本法案」が今回のネット不動産と大きく関わってきます。これにより、48の法律が一括改正され、書面や捺印が撤廃されるという非常に大きな変化が起こります。

そしてPropTech、つまり不動産テックにおいて大きな意味を持つのが、宅地建物取引業法(通称:宅建業法)の改正です。その施行は、いよいよ来月に迫っています。

この改正宅建業法が施行されると、これまで押印・書面交付が必要だったものが不要になります。つまり電子契約(書面の電子化)が可能になるということです。

不動産契約のプロセスにおいて、申込から完了までにおいては、重要事項説明がオンラインで実施できても、35条書面(※1)や37条書面(※2)は書面交付が必要でした。それらが電子化できる、つまりすべてオンライン化するのが今回のポイントです。ついに、不動産取引がオンラインで完結するようになるのです。

※1 35条書面:宅建業法35条の規定に基づく重要事項を記載した書面(重要事項説明書)。契約締結前に交付される。
※2 37条書面:宅建業法37条の規定に基づく契約内容を記載した、契約の諸条件の内容を確認する書面。契約締結時に交付される。

もちろん不動産は大きなお金が絡むため、ローンや登記などオンライン完結しない領域は残ります。しかし不動産契約締結まではすべてオンラインになるというのは大きな変化です。この業界における大きな節目を、私たちは「ネット不動産の解禁」と表現しています。

日本でインターネットが商用利用されて、20年以上が経ちます。ネット証券が誕生した後、ネット銀行、ネット生保と、巨大産業とインターネットの出会いで爆発的・革命的に変化を遂げたビジネスを少なからず目にされてきたと思います。その躍進の裏側には、インターネットを中心としたビジネス側の革新があるのはもちろんのこと、この20年間でインターネットユーザーを取り巻く環境やリテラシも大きく前進したという点も挙げられます。

こうした「金融の巨大産業×インターネット」の流れに、今年、ネット不動産が加わります。

それでは改めて、ネット不動産とはなにか。これについてお話して参ります。これまでも、インターネット上で物件を検索することは可能でした。私たちは「検索だけでなく、面談や契約など不動産を賃貸・売買するために必要な手続きを、すべてオンラインでシームレスに進めることができること」をネット不動産と呼んでいます。これが今年いよいよ解禁されます。

不動産は非常に大きな買い物ですし、とくに自分の居住用の不動産売買では、必ずしも感情的に「すべてネットで完結させたい」とはならないかもしれません。だからこそ、今回の法改正で市場が広がるのは、不動産の中でもとくに「投資運用」「管理」「賃貸」の領域だと思っています。賃貸なら「地方から上京する際、オンラインですぐに探したい」、投資なら「利回りなどがわかればオンライン完結のほうが手短でいい」という方が多くいらっしゃるので、ネット不動産はまずはこの3つの領域が先行するのではないかと予測しています。

GA technologiesでも、これまで国交省の社会実験に参加し、IT重説は240件以上行いました。またコロナ禍において、オンラインを希望される方に数百件の面談を行った実績があります。これまではこのように面談がオンラインでできても、書面交付が必要でした。これがついに電子化されます。不動産取引は進化し、ユーザー体験も刷新されると考えています。

さらに、GA technologiesが提供するサービス「RENOSY」では、業界初となるマイページ上でオンライン取引が完結する仕組みをリリースしました。改正宅建業法の施行後は、すべてオンラインで不動産契約が完結できるようになります。

このように、ネット銀行やネット証券の口座開設に近い形で、スマホから本人確認書類などが提出可能になります。契約に必要な書類が確認できたら電子契約に進行し、宅建士と確認しながらオンラインで読み合わせをして契約に至るという、この一連の流れがRENOSY上で完結します。こちらは現在特許出願しており、今後のネット不動産におけるフラッグシップになると確信しています。

ユーザーの利益と業界健全化に寄与する「ネット不動産」

続く第2部は、東京大学大学院経済学研究科特任教授・武藤 祥郎氏、デジタルベースキャピタル 代表パートナー・桜井 駿氏、そしてGA technologies代表・樋口 龍によるパネルディスカッションです。ネット不動産解禁による業界および社会の変化について語り合いました。

第2部 パネルディスカッション:ネット不動産の未来と可能性

桜井 駿(以下、桜井):

まず本日のテーマ、ネット不動産ですが、正直「やられたな」と思っています。私の専門はFinTechやPropTechですが、たしかにこれまでネット不動産というのはなかったなと。たとえばネット証券と言えばマネックス証券やSBI証券などのイメージがありますが、今後はネット不動産企業といえばGA technologiesと考えていいのでしょうか?

樋口 龍(以下、樋口):

そう思っていただけるように、売買でも賃貸でも取り組みを進めている段階です。

桜井:

樋口さんを持ち上げるわけではありませんが、今回の法改正以前に、不動産業界において取引プロセスをオンライン対応できている会社はほとんどありません。FinTechでは金融業を自ら営む会社は少ないのですが、ネット不動産は不動産業を営んでいることが非常に重要だと考えています。ネット不動産の取り組みがGA technologies以外にも増えてくれば市場として非常に盛り上がると思いますが、法改正でどのような変化が起きると思いますか?

樋口:

これまでさまざまな業界がデジタル化されてきましたが、これはすべて顧客の利便性を追求した結果です。小売ならアマゾン、飲食ならUberを考えると、これらのサービスは顧客が自ら動かなくても取引が完結しますね。不動産も、今までは消費者が自ら足を運んでいましたが、すべての商材は顧客起点で考えなければいけません。これからは自宅にいながら不動産契約が完結できる世界になると思います。不要な時間を短縮できれば、もっとできることが増える。ただし、それができる領域は、まず賃貸と投資だろうと思っています。

桜井:

第1部で紹介されたネット生保は、知名度は高いものの普及したかというと、契約率で見ると実はそうでもないのが実態です。やはり生活における接点の頻度は非常に大事だと思います。その点、不動産は家賃の引き落としなど、実は非常に頻度が高い。どちらかといえばネット証券やネット銀行寄りではないかと思います。

樋口:

賃貸でも引越すのは数年に1回なので、「不動産はトランザクションが少ない」と言われます。しかし、家賃引き落としや管理費を考えると、実はサブスクリプションのように毎月発生するんですよね。そういった点では似ているかもしれません。

桜井:

顧客の要望あってのオンライン化だと思いますが、武藤先生としては不動産のイノベーションを研究する立場で、一般の利用者や大手不動産会社などさまざまなプレイヤーを見てこられたと思います。その上で、現在の状況をどう捉えていますか?

武藤 祥郎(以下、武藤):

自分は本日、オールドエコノミー側として呼ばれていると思って来ていますが、今回の法改正で35条・37条書面が紙ではなく電子で良いことになりました。10年前は自分などは「紙じゃないとダメ」という空気がありましたが、私の世代ですら、もう紙じゃなくていいのでは、と感じるようになった。電子契約が解禁されることで、賃貸や投資運用の分野からネット不動産的な動きが始まるのではないかと考えています。「来店しなくていい」「紙ではなく電子でいい」というように、時間や労力を節約する動きが加速するだろうと思います。

桜井:

これまで国も実証実験を行ったりと、不動産のオンライン化には少なくない時間をかけてきました。武藤先生が国交省を経験された観点からお伺いします。デジタル改革関連法の存在は大きいと思いますが、この変化のスピード感は、ルールをつくる側から見てどのように捉えられていますか?

武藤:

2015年に賃貸でIT重説の社会実験(※3)が始まりましたが、売買は消費者保護の観点から、当時は慎重な声が多かったのが事実です。しかし、コロナで流れが変わり「売買も重説はオンラインでいい」という空気になりました。これが今回、契約書もオンライン化するところまで来たわけです。

売買は印紙税(※4)を考えると電子契約にメリットがありますし、オンラインのほうが消費者が文句を言いやすいという可能性はあると思います(笑)。しかし、自分の大切な物件をすべてオンラインで買おうという人は多くはないのではと思っています。

※3 IT重説の社会実験:2013年6月「世界最先端IT国家創造宣言」の閣議決定、同12月「IT利活用の裾野拡大のための規制制度改革集中アクションプラン」の策定を受け、不動産取引における重説の対面原則の見直しが検証対象となった。賃貸では2015年に社会実験がスタートし、2017年10月より本格運用が開始された。売買は2019年に個人向けの社会実験がスタートし、2021年に本格運用となった。
※4 印紙税:印紙税法で定められた課税文書に対して納付する税金のこと。不動産の売買契約書などが課税文書に該当し、契約書の記載金額によって税額が決定する。電子契約の場合、印紙税は発生しない。

桜井:

ネット銀行があっても店舗に行く人もいますし、選択できるようになることが大きなポイントかもしれませんね。

樋口さんはこれまで個人の利用者、お客様の声を聞いてオペレーションを改善してきたと思いますが、コロナを経てお客様の変化というか、要望の変化などはありましたか?

樋口:

「不動産のような高額商品は、すべてオンライン化するのは難しいのではないか」というお話がありましたが、実際の現場ではそうでもないんです。2,000万円や3,000万円の物件でも、直接見ずにGoogleストリートビューで済ませ、物件情報はオンライン上でオープンになっているものを確認するという方も増えています。GAに関しては、賃貸と投資の売買をオンラインだけで完結される方が8割以上いらっしゃいます。

武藤:

それはすごいですね。

樋口:

2017年、本格的に賃貸のIT重説が始まりましたが、売買は社会実験が始まったのが2019年と、遅れて進んできました。今回の電子契約も、売買はもっと後かなと思っていたので、同時期というのは驚きでしたね。本当のパラダイムシフトになると思っています。

桜井:

大きなシステムが変わる際に、「自社の人材育成」と「プロダクトへの反映」を両立するのはかなり難しいと思います。コロナによって変わったお客様のフィードバックをサービスに反映するのはスムーズに進んだのでしょうか?

樋口:

リアルとテクノロジーを融合するためには、プロダクトを作るエンジニアが現場の業務を理解することが必要です。それなしにユーザビリティの高いプロダクトは有り得ません。我々は2013年に創業しましたが、正直なところ、最初の方のプロダクトはまったく使えませんでした。そこでエンジニアが現場の業務を体験してフローを理解し、社内の改革をして、最後にエンドユーザーであるお客様の体験を変えるという順番で進めてきました。

桜井:

ネット証券など他業界を見ると、新しいプレイヤーの誕生と並行して、大手企業がネット対応を実施してきたと思います。武藤先生から見て、大手不動産会社のオンライン化への対応姿勢はいかがですか?

武藤:

大手企業も自社サイトでVR内見に対応するなど、いろいろ工夫をしているので、オンライン化への障壁はないと思います。

大手の話だと、先ほど「金額が高いとオンライン契約は難しいのではないか」と申し上げましたが、どういう客層、どういう取引形態の人がアクセスしているかが重要なのかもしれませんね。大手に行く層とベンチャーに行く層は分かれているのかもしれないと感じました。選択肢が広がるということですね。私は賃貸でも直接見る派ですが、そういう人も日本の人口の4分の1くらいはいるかもしれません。でも、そうではなく直接見ずに決めるという新しい考えの方もいるでしょう。

樋口:

そうですね、Suicaができても切符を買う人がいるように、並行して選択肢としてあるといいですね。オンラインか対面か、選択できることが大事ですね。

武藤:

どこまでがオンラインでどこまでがリアルが求められるかは、まさにこれから研究していきたいです。

桜井:

樋口さんに聞きたいのですが、賃貸でも内見しなくていいという方がいるのでしょうか?私も内見以外はスマホで済ませたいですが、物件は見に行きたいです(笑)。

樋口:

その状況にならざるを得ない方からそうなっているという印象ですね。進学にともなう上京で、短期間で決めないといけない。繁忙期でそもそも見れない。限定条件のもとで選んでいる方がまずは多いですね。

武藤:

そこから徐々に広がっていくんでしょうね。

桜井:

ネット不動産は、数あるビジネストレンドの中でも特に注目すべき、インパクトが大きいものだと思っています。利用者もそうですが、仲介業者もオペレーションがガラッと変わるのではないでしょうか。これまではネット集客後の来店率をKPIにしていた企業が多いと思いますが、来店も内見もしないとなると、仲介・管理会社ともに根底から対応を変える必要があります。GAグループだとイタンジが該当してくると思いますが、もう変化は起きているのでしょうか?

樋口:

不動産業界がデジタル化しなかった理由のひとつに、顧客側にリテラシーが貯まりづらいということがあります。引越す時に不便な思いをしても、「数年に1回だからいいか」と忘れてしまうんですね。

しかし、コロナによって、事業者側が既存の業務フローではビジネスができなくなりました。本来は顧客起点でビジネスを考えるものですが、不動産業界はコロナでオンライン申込やオンライン内見に変えざるをえなかった企業が多いです。そこから、徐々にオンラインでやりとりできるようシフトしているのが今の大きな流れですね。

桜井:

不動産会社の中には「どうしても顧客を店に呼びたい」という考えがあるのでしょうか?そのほうが、なにかメリットがあるのでしょうか?

樋口:

おそらく「来店したほうが成約率が高い」という印象があるのではないでしょうか。過去の成功体験に紐づけて考えてしまうので、これまで通り店舗に呼んで会いたいというケースがあるのだと思います。

武藤:

不動産会社は、KPIを来店率に置いているケースが多いです。対面で営業担当と直接やりとりすると、顧客側に「断りづらい」という心理が働くからではないかと思っています。GAの場合は、もっと大きなパイを得ているなど、別の要素があるのではないでしょうか。

桜井:

クロージングなら、オンラインでもフォローメールなり施策は考えられますよね。

樋口:

我々の場合、投資用物件の売買における対面とオンラインそれぞれの成約率を計測したところ、変わりませんでした。成約率が同じであれば、オンラインのほうが商談数を増やせるのでメリットが大きいと考えています。

桜井:

それはテクノロジーの力もあるのではないでしょうか?完全にアナログな会社でそれができるのかはちょっと疑問です。事前の情報収集やお客様の状況把握などを、何かしらの方法で実施されているのでしょうか?

樋口:

それはありますね。それまで人がやっていたことを、いかにデジタル化できるかが重要だと思います。人がやっているプロセスを省いてしまうと、結果は変わってくるでしょう。

武藤:

オフラインで顧客を呼ぶことにこだわる人は、その部分に自分の強みというか、重点を置いているのかもしれませんね。

桜井:

規制産業のネット化において、顧客保護は非常に大事になってくると思います。ネット不動産の普及において、さしあたって考えられる顧客の不利益はあるでしょうか?

武藤:

不動産の場合、会社も個人も運命を賭けるような大きな取引などでは、地面師(※5)などの犯罪もありえます。当然防護策は設けているものの、それをかいくぐってきたときにどうするかというのはあるでしょう。署名を偽造するなど、これまでリアルで起きた犯罪が、オンラインでやりやすくなるかは、まだわかりません。そこまでひどくはならないだろうという想定なのだと思います。詐欺などの不正を防止する手段をどうするかというのが、今後のポイントでしょうね。

※5 地面師:不動産の所有者になりすまし、売却をもちかけて買い主から売却代金をだまし取る詐欺を行う者、もしくはそのような手法で行われる詐欺行為のこと

樋口:

私は、ネット化することでオンライン面談や重説が録画できるようになり、逆に安全性が担保されるのではないかと思っています。リアルではそういった仕組みがなく、どんな説明をしたかはブラックボックス化されていました。お客様からすると、逆に安心感につながるのではないかと思います。

桜井:

業界の健全化にもつながるかもしれませんね。たまにニュースで、不動産セールスが自宅に居座り、マンションを買うようしつこく迫る映像がありますが、オンラインなら証拠として残ります。

正直、不動産業界は一般の方からするとあまり良いイメージがなく、どちらかというとネガティブ。そうなると、若い人や優秀な人は、なかなか興味を持ってくれません。だからこそ、東京大学に武藤先生のいらっしゃる組織ができたのも大きいですが、ネット化も業界の健全化につながるのではないかと期待しています。

樋口:

録画されると、もちろん変なことも言えないので、健全性につながると思います。GAの場合は、定期的に内容を確認し、コンプラ面のチェックもしています。

桜井:

そうした対応が質の担保につながりますね。

武藤:

オンライン重説は本当にそういう効果が大きいですよね。重説が適切か、売買ではそれぞれの宅建業者の関係性が適切かなどがチェックできる。その点においては、透明化は非常にいいことだと思います。

桜井:

不動産業界は、市場が非常に大きいので、プロセスがオンライン化すれば他業界からの参入も促されるでしょう。おそらくこれから2〜3年は不動産業界がネット化を進めると思いますが、その先はどうなると思いますか?

樋口:

我々としては、RENOSYというマーケットプレイスのトランザクションをしっかり活かしたいと思っています。アメリカと比較した際、日本の不動産の課題は、レインズ(※6)に成約データが一部しか登録されないことです。成約データをしっかり管理できるようになれば、関連ビジネスが無数に生まれると思います。

※6 レインズ:国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピューターネットワークシステム。「Real Estate Information Network System」の頭文字から「REINS(レインズ)」と呼ばれる。

桜井:

取引データはユーザーにとっては非常に価値がありますよね。不動産取引が資産形成にプラスに働くとわかれば、家計簿アプリと連動するなどの未来も十分有り得ると思います。投資余力は日本にまだありますし、市場の裾野も広がるのではないでしょうか。

武藤:

レインズへの登録は、残念ながらネット不動産そのものでは大きく進まないかもしれません。とはいえ、レインズへの登録は一都三県で3〜4割まで増えたので、もっといい形に育てる必要があると思います。とくに西日本での活用促進は重要です。

また、不動産関連のデータで言えば、環境性能や登記簿との連携などについてはまだまだ余地があります。とくに海外では環境性能をデータ面で非常に重視しているので、その部分に対応しないと日本は遅れてしまいます。

樋口:

国交省主導の不動産ID(※7)も、ネット不動産と関連すると期待しています。今はID化されておらず、各不動産会社が同じ物件をいろんなサイトで確認し、データベースもバラバラという状態。不動産IDが実現すれば、不動産業界のテクノロジー化も何段階も進むと思います。

※7 不動産ID:1つの不動産に関する多様な情報を紐付ける固有番号。不動産取引の透明化を推進する構想として、国土交通省によりルール整備が検討されている。

武藤:

今はその第一歩ができたという段階ですね。国交省もさらに考えていくと思いますが、大きな動きであることは間違いないと思います。

樋口:

我々はGAグループ全体で、売買・賃貸ともに不動産のDXを進めてきました。ネット不動産という大きなパラダイムシフトで業界全体が盛り上がり、それが消費者に伝わり、結果として流通額が上がって、不動産を所有している人や事業者みんながWIN-WINになる形を目指していきたいと思っています。

武藤:

私も「不動産イノベーションとは何か」ということを追い求めてきましたが、今回法改正という大きな環境変化があるので、ネット不動産や不動産IDも含めて何ができるか引き続き考えていきたいと思います。

桜井:

「ネット不動産」という言葉は、これまで誰も言っていませんでした。いまGA technologiesは唯一の存在だと思いますし、今後のスタンダードを作っていくと思います。ぜひ今後も定期的に議論していきましょう。

最後に、参加者の方から質問です。ネット不動産によって仲介手数料は安くなるのでしょうか。こちらはいかがですか?

樋口:

イタンジが提供するサービスにOHEYAGOというものがあり、仲介手数料は一般的なサービスよりかなり安くしています。デジタル化して得た利益をお客様に還元するのが、ネット不動産の良い面だと思っています。

桜井:

ネット銀行も、手数料ゼロや24時間対応などのコストメリットで普及しましたね。消費者にとってもわかりやすい部分ですね。


いかがでしたか?

イベント開催後の4月27日、国交省から省令・告示の公布があり、改正宅建業法の施行日が5月18日に決定しました。いよいよ法改正が目前に迫り、不動産業界のみならず私たちの生活も変化しそうです。

今後もネット不動産、そしてGA technologiesグループにご期待ください!

EDITOR’S PROFILE
  • Corporate PR
  • GA MAG.編集長
浅野 翠
2011年に早稲田大学を卒業後、インターネットイニシアティブ(IIJ)やビズリーチで人事を務める。2018年にGAテクノロジーズに入社。2020年8月より広報を担当。好物はすっぱいお菓子。
Twitter:@midoriii1221
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